京都民医連第二中央病院広報誌 2009年4月発行 vol. 12

キューバ訪問記 キューバの医療実践を学ぶ旅

院長 門 祐輔

北アメリカ大陸
キューバはアメリカに「経済封鎖」されているのでアメリカ経由ではいけない。日本→カナダで一泊→キューバと飛行機を乗り継いで行くことになり、ほぼ2日かかる。カナダ出発時はマイナス12℃、5時間後キューバのハバナへ到着したときは30℃と真冬から真夏へ。8日間の視察旅行だったが、実際に現地にいたのは丸4日間のみであった。

 キューバは、アメリカの南に浮かぶ人口1,200万人弱の小さな国だ。私は今年の1月下旬に医療視察の旅で訪れた。

 キューバといえば、「カストロによる独裁国家」、「国民がカリブ海をボートでアメリカへ大量に逃げ出す貧しい国」、という暗いイメージを持つ人もいる。一方で、「高い医療レベル」「教育レベルが極めて高く大学まで無料」「有機農業で食糧問題を解決しつつある国」、とも言われる。いったい何が本当だろうか?

 そんな思いもあって参加した視察であった。


ポリクリニコ診療所 ポリクリニコといわれる設備の整った診療所とそのスタッフ。
人口1万人あまりの地域を37人の医師と400人弱のスタッフが24時間体制で支えている。このバックには病院がある。

 客観的に見れば、国民1人当たりの所得は日本の数10分の1。古い建物が建ちならび、最初は参加者がみな息をのんだ。しかし数日過ごす中で目が慣れていき、車と自転車と馬車の行き交う道路、余計な電気を使わないため日が暮れるとすぐ暗くなる街など、貧しい中で合理的な生活をしていることに気づいた。

 また人々は総じて陽気で明るい。街でわれわれを見ると「オラ(こんにちは)」「チーノ(中国人、そう見えるのだろう」と声をかけてくる。店からはサルサのリズムが聞こえ、ゆったりとした時間が流れている。貧しさでせっぱ詰まった感じはしない。それには陽気な国民性が根底にあるが、生活必需品が極めて安く手に入り(配給制)、生きていくことはできるという安心感があるからだと思う。

 日本との対比でキューバの医療を私なりにまとめると、

① 医師数が多く(人口当たり日本の3倍)、計画的に養成・配置されているために都市部、へき地で提供される医療の差はない。

② 衛生・生活習慣の改善、ワクチン接種、家庭医の重視など予防を重視し、重症化しないように努める。

③ 臓器移植を含めレベルの高い高度医療が行われている。

④ 医療は予防から高度医療まですべて無料。

アルメヘイラス病院 アルメヘイラス病院。臓器移植も行う1,000床の病院。
陽気な市民 陽気な市民。ギターをひく人の隣の両下肢切断者は、私がカメラを向けると同時にカメラを構えた。
ハバナ市内 病院の16階からみたハバナ市内。古い建物が並んでいる。

⑤ 発展途上国の災害には思想の如何に関わらず無償で大規模な救援活動をし、世界から1学年1,500人の医学生を無償で受け入れ医師養成を行う国際貢献(キューバの医学生は1学年2,300人なので相当数の外国人医学生を受け入れていることがわかる)、となる。

 今回の視察で、本当にこうしたことが行われていることを感じることができた。この根底にあるのが、「人を大切にする」「持っているものを共有する」という思想だ。

 物不足、24時間あいているコンビニはない、など日本的な意味での便利さはない。医師や知識人が経済的に報われるわけではなく、われわれ外国人に対してもこぼしていた。選挙では2割くらいの批判票がでるとのことだ。この点では思想の押しつけ、という感じはしない。この国に暗いイメージを持つか、明るさを感じるかは、受け止める側の「豊かさ」「貧しさ」に対する考え方によるようだ。


 ひるがえって日本の現状をみると、はるかに「豊かな」国のはずなのに、格差拡大、医療・介護崩壊、将来不安、政治の貧困など先が見えない状態が続いている。民医連は、医療・介護の「再生プラン」を提案し、広範な人々、団体と懇談を重ねている。基本は「だれもが安心して医療・介護が受けられるように」「医療・介護にもっと国のお金を使おう」というものだ。先進国、経済大国というのなら、キューバに負けない医療・介護制度はできるはずだ。近々行われるはずの総選挙では、最大の争点にすべき課題である。

 キューバは小国ながら、先進国に常に問題提起をし続けている極めて存在感のある国だ。