京都民医連第二中央病院広報誌 2009年4月発行 vol. 12

ニキビ治療の最新事情

日本皮膚科学会認定専門医
戸田 憲一

 本邦でもようやくといっていいほど欧米では当たり前になっていましたニキビの治療の標準化が提唱され、またそれと呼応して治療のガイドラインなるものが日本皮膚科学会より作成されました。皆さんは、ニキビは青春のシンボルと考え、また生命に関わる病気というほどたいそうなものではないという気持ちから、ニキビ治療薬を購入、あるいは化粧品を使用することで独自にすまされることも多いと思われますが、適切な治療ができなかったためにニキビが重症化し瘢痕などを残す結果、いわゆるQOLを大きく損なう場合も見受けられます。昨年度、保険適応が初めて可能となったこれまでとは全く異なる新しい治療薬の登場により我が国のニキビ治療が標準化という枠組みの中で大きく変わろうとしている今日、これから行われようとしている新しいニキビ治療の概略についてここでご紹介いたします。

ニキビとは

 ニキビは正確には尋常性ざ瘡といいます。ニキビは、ほぼ100%のヒトが経験するといわれ、皮膚科の他、多くの臨床科の医師が相談をうけることも多い病気です。まずニキビ発症の仕組みを簡単にご説明しましょう。

  ニキビは毛のなかでも、脂腺の発達が著しい脂腺性毛包といわれる毛包を舞台としたPropionibacterium Acnes(P.acnes:ニキビ菌ともいう)の感染症です。好発部位は脂腺性毛包が多く分布する、顔面、前胸部、上背部などで、このような部位を脂漏部位といいます。

 P.acnesは、本来、嫌気性の毛包内常在菌であるために、この細菌が存在するだけでは症状はでませんが、思春期になり、皮脂腺の活動が活性化し、皮脂線の増殖や皮脂の分泌が亢進、いわゆる脂漏状態が準備され、さらに皮脂の皮膚表面の分泌部が狭くなったり閉塞したりする結果、皮脂の毛嚢内貯留が始まってはじめてニキビ形成が開始されます。

ニキビ形成が誘導されますと、毛嚢内には、皮脂の他、皮脂分解産物あるいは剥離した毛嚢角化物などもさらに貯留し、肉眼的な小丘疹が形成され、これを面皰(コメド)といいます。この時、毛包が閉鎖し白色の丘疹様皮疹を白色面皰(白ニキ:閉鎖面靤)、外界へ内容物が開放露出し、白ニキビより大きく、頂点がメラニン含有ケラチンのために黒く見える皮疹を黒色面皰(黒ニキビ:開放面靤)といいます。これらには通常、炎症はありません。これを非炎症性ニキビといいます。さらにニキビ菌の増殖がコメド形成とともに活性化しますと、菌が産生するリパーゼという酵素により皮脂が中性脂肪と脂肪酸に分解され、その脂肪酸が毛包を刺激して初めて炎症が生じてきます。いわゆる赤く腫れた丘疹(ブツブツ)が目立ってきますが、一般にはこの状態でニキビ治療にこられる患者さんが多いようです。これを炎症性ニキビといいます。

従来の治療と新しい治療

  これまでニキビ治療にこられる多くの患者さんは、炎症性のニキビ症状が増悪していることがほとんどで、従来の治療ではその炎症を抑えることに主眼がおかれていました。従っていわゆる抗生物質を外用したり、内服したりして行われてきたことは皆さん方もよく経験されているのではないでしょうか。この治療は確かにきわめて有効ですが、中止しますとまた症状が再発してきますし、と言って長期間の内服は副作用を考えると薦められる方法でもありません。これらの薬剤は漫然と使用するのではなく、症状にあわせて適切に使うことが重要です。

 また、さきほど述べましたニキビ形成の病理を理解するならば、炎症を生じる前の非炎症性ニキビの段階で治療を行う、あるいは明らかなコメド形成を無くするような治療を行うことがより根源的であり、理にかなった手法であることに気づかれることと思います。この治療法が10年以上も前より欧米では行われていたにも関わらず我が国では適応されていませんでした。これが日本がニキビ治療の後進国と揶揄された所以です。

 昨年度になって我が国においてもコメド形成抑制機能をもつ外用薬剤がようやく保険適応となり、欧米とほぼ同様の治療が可能になりました。これがレチノイド製剤と言われる薬剤です。この薬剤はすでに世界60ヶ国以上での標準治療薬として使用され、現在ニキビの重症度に関わらず第一治療選択薬となっています。この薬剤は、非炎症性ニキビに対してコメドをできにくくする作用だけでなく、炎症性ニキビに対しても抗炎症作用を持っているため、どちらのニキビに対しても有効な治療手段と言えます。また眼に見えないコメド(微小コメドと言います)を生じにくくするニキビ予防効果も有しています。ただ①一日一回就寝前に外用し起床時に洗顔で除去する、②ほとんどの患者さんで使用2週間程度はヒリヒリ感などの皮膚刺激作用がある、などといった使用上の注意事項があるため、皮膚科専門医による治療が推奨されます。当病院においても皮膚科専門医の下での治療を開始しておりますのでどうぞ気軽にご相談ください。

治療における望ましい生活とは

 従来の、ニキビ→感染症→抗生剤投与という構図でもなく、また新しい治療ガイドラインに従ったレチノイド製剤を第一選択とした治療を実践するとしても、薬剤投与のみに依存することなく、一方においてニキビに対する、正しい生活指導も加味した診療形態が望ましいと言えます。

 とくに非炎症性ざ瘡の治療においては、スキンケアを基本とした指導事項が極めて重要となります。中でも洗顔は重要で、微温湯を用いて、石鹸による洗顔を励行すること、外出から帰宅した時の洗顔は忘れがちですが、行うことが肝腎です。また、顔面や耳に達する衣服(ハイネックセーターなど)の使用、前額や顔面に深くかぶさる毛髪/ヘアスタイルは避けたいものです。油性の化粧品の使用は中止し、化粧水や乳液を用いることをお奨めします。食生活では、栄養のバランスがとれていることが重要で、嗜好品の過量摂取は症状を増悪させます。規則正しく、ストレスの少ない日常生活を心がけることにより、良好な治療効果が期待できるでしょう。

おわりに

 ニキビといえども、患者さんにとっては青春期であるがゆえに、症状の程度によっては大きな精神的苦痛を伴うものです。また、その症状の程度は、個々の患者さんの生活環境に極めて大きく左右されるものです。ニキビは、誰にでも生じ、いずれ消失する一過性の皮膚の病態であるがゆえに、たとえ、炎症期であっても漫然とした抗生剤の投与は慎むべきであって、今回抗生剤ではない外用レチノイド製剤が画期的治療手段となったことは朗報です。我が国においても世界標準の治療がようやく実現可能となり、ニキビ治療の新しい時代が到来したといえます。しかし実際の有効性は当然、診療現場で検証してゆく必要があります。当院皮膚科におきましても、患者さんとともに、生活指導を含めた新たなニキビ治療を考えてゆきたいと考えていますのでよろしくお願いいたします。

当院の皮膚科外来

 
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