京都民医連第二中央病院広報誌 2010年11月発行 vol. 15

ご存じですか?
COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)

内科 下之内康雄

階段で息切れ

COPDとは

 COPDは、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)と呼ばれ、日本には500万人以上のCOPD患者さんがいると推定されています。
 COPDは、たばこなどの有害な空気を吸い込むことによって、空気の通り道である気道(気管支)や、酸素の交換を行う肺(肺胞)などに障害が生じる病気です。その結果、空気の出し入れがうまくいかなくなるので、通常の呼吸ができなくなり、息切れが起こります。

原因

 COPDは別名たばこ病と言われており、原因の90%以上は喫煙です。喫煙開始の年齢が若いほど、また1日の喫煙本数が多いほどCOPDになりやすく、進行しやすいと言われています。
  日本では、昭和初期(1930年代)から1970年代まで、たばこ消費量の増加が続きましたが、それから約30年遅れて、COPD死亡者数の増加がみられます。
  その他、受動喫煙や大気汚染、職業的な塵埃、化学物質も原因と考えられています。

症状

 階段の上り下りなど体を動かしたときに息切れを感じたり、風邪でもないのに咳や痰が続いたりすることがCOPDの主な症状です。COPDの症状は、ありふれた症状であるため、見過ごしてしまいがちで、COPD発見の遅れにつながります。 COPDが進行すると少し動いただけでも息切れし、日常生活もままならなくなります。さらに進行すると呼吸不全や心不全を起こす命に関わる病気ですので早期発見、早期治療が重要です。特に40歳以上の方で、喫煙歴のある方は要注意です。以下のような症状のある方は、軽く考えず早めにご相談ください。
階段の上り下りで息切れがする。
風邪が治りにくかったり、咳や痰が続いたりする。
呼吸のたびにゼーゼー、ヒューヒューがある。

診断

〈肺機能検査〉

 肺機能検査は、スパイロメーターという機械を用いて、数分程度で行えます。
  この検査は、最大限に息を吸えるだけ吸い、それを思い切り強く吐き出した空気の最大量「努力肺活量」(FVC)と、最初の1秒間に吐き出せる空気の量「1秒量」(FEV1)を測定し、「1秒量」を「努力肺活量」で割った「1秒率」(FEV1%)を算出します。 この1秒率が70%未満の場合は、COPDの可能性があります。
  最近では、よりわかりやすく「肺年齢」という指標を用いて、実年齢との差をしめすことで、病気への意識を高めてもらおうとしています。
  息切れ、咳、痰といった症状がなくても、肺年齢がかなり高く示されることもあり、病気の重大性を自覚しやすくなります。

〈その他の検査〉

 肺機能検査以外にも、動脈血の酸素濃度を測る検査、胸部X線写真撮影、胸部CT検査などを行うこともあります。

肺機能検査 肺機能検査検査は数分です。健康保険が適用されます。

治療

 現時点でCOPDを根本的に治し、もとの健康的な肺に戻す治療法はありませんが、少しでも早い段階で病気に気づき適切な治療を開始することで健康状態の悪化と日常生活の障害を防ぐことができます。
  COPDの治療法としては、禁煙、薬物療法、呼吸リハビリテーションなどが行われます。さらに重症になれば、酸素療法や外科的療法が行われることもあります。

〈禁煙〉

 COPD治療の第一歩は禁煙です。喫煙を続けるかぎり、病気の進行を止めることはできません。まずは、きっぱりとたばこをやめることが重要です。
  たばこに対する依存性の強い人はニコチンパッチやニコチンガムなどのニコチン代替療法や、専門医の指導のもと非ニコチン製剤の飲み薬を使って、禁煙する方法もあります。

〈ワクチン〉

 COPD患者さんは、感染症が重症化しやすくかつCOPDの増悪原因となることから、ワクチンの接種が重要です。増悪を防ぐためのワクチンにはインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの2種類があります。特にインフルエンザワクチンは重篤な増悪を減少させ、死亡率も約50%減少させると報告されています。すべてのCOPD患者さんとその家族、介助者にも接種をおすすめします。

〈薬物療法〉

 COPDの治療目標は病気の進行をくい止めて、QOL(quality of life:生活の質)を改善し、少しでも健康的な生活が送れるようにすることです。 COPDでは気管支が収縮し、呼吸が苦しくなります。このため、気管支を拡げて呼吸を楽にする気管支拡張薬が薬物治療の中心となります。その他、痰をとる去痰薬、咳を止める鎮咳薬、感染症を防ぐ抗生物質や、増悪を繰り返す場合には吸入ステロイド薬を使用することもあります。

〈呼吸リハビリテーション〉

 呼吸リハビリテーションは、呼吸器の病気によって生じた障害を持つ患者さんに対して、可能な限り機能を回復、あるいは維持させ、これにより、患者さん自身が自立できるように継続的に支援していくための医療です。その中でも中心となるのが呼吸理学療法で、自覚症状の軽減、運動能力の向上、QOLの向上といった効果が期待できます。

〈酸素療法〉

 肺機能の低下が進むと、普通の呼吸では十分に酸素を取り込めなくなり、低酸素血症を起こし、呼吸不全という症状に陥ります。家庭で持続的に酸素を吸入する在宅酸素療法を行うことで、患者さんのQOLが向上し、生存率が高まります。

〈外科療法〉

 COPD治療の中心は内科的治療ですが、さまざまな内科的治療を行っても症状が改善しない場合、外科的な治療が行われることもあります。COPD患者さんは、肺が破壊され、弾力性を失って、肺が膨張しています。この膨張した肺を縮小させるために、極度に破壊された肺の一部を切除する手術が行われます。
  外科的治療がすべてのCOPD患者さんに効果があるわけではなく、また根本的な治療でもないため、十分に医師や家族とともに検討することが必要です。

〈増悪期の管理〉

 COPDでは、呼吸困難、せき、たんなどの症状が短期間で急激に悪化することがあります。呼吸困難が悪化する、痰が増える、粘っこくなるなどの症状が急に現れたら、なるべく早めに受診しましょう。

最後に

 近年、COPDは世界中で増加の一途をたどっており、今後も増え続けると予測されています。
  厚生労働省発表の2006年日本における死亡原因としてCOPDは10位となっており、特に男性では8位となっています。診断されているCOPD患者さんは22万人程度とされていますが、実際には推定で500万人以上と報告されており、多くの患者さんが診断されておらず、十分な治療が受けられていないのが現状です。
  たとえ症状がなくても、喫煙者の方は、できるだけ早期に禁煙されることと、自分の肺年齢を調べておくことで、早期治療につながり、将来訪れる障害を抑えることが可能になります。