京都民医連第二中央病院広報誌 2004年11月発行 vol. 1

大文字 創刊号

京都民医連第二中央病院の神経内科
治りやすい早期に専門医療を!

プロフィール
中村紀子
医師
京都大学医学部卒業 1978年卒
●専門資格
  • 日本神経学会専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定臨床医
  • 日本内科学会認定医
●家族 夫と息子2人
●趣味 広く浅く多数あり
 

神経内科って、どんな科?

 最近ずいぶん売り出してきましたが、少し前までは当院の看護師でも精神科とまちがえたほどです。神経内科は、精神でなく、脳や末梢神経や筋肉疾患を扱う科です。

 代表的なものは、片麻痺を引き起こす脳梗塞や、脳出血です。頭痛や目まい、手足のしびれ、ふるえ、動きにくさなども診察しています(病名で言うなら、偏頭痛や頭位変換性めまい、末梢神経障害、パーキンソン病などです)。最近では、痴呆症(アルツハイマー病など)もよくみます。

神経内科って、治らない?

 よく聞く質問です。実は私も研修医の時、大学の恩師に質問したのです。恩師はこう答えられました。「心筋梗塞は治るかね(傷は残り、心不全になったりする)。脳梗塞だって、リハビリ(リハビリテーションのこと)すれば治るのだ。」

 しかしそれだけではありません。これまでは、治らない頃になって初めて病院に来ることが多かったからではないでしょうか。

 こんな例がありました…。

京都民医連第二中央病院 神経内科の概要
日本神経学会教育施設
日本神経学会専門医3人

ある男性

数ヶ月で徐々に、手足の力が弱っていくことって、精神的な病気?

 30代の男性。大柄で現場の仕事を切り盛りしていました。なんだか手足の先のほうがしびれ、力が弱ってくる感じがしてきて立ちづらくなり、3~4ヶ月した頃、近くの整形外科で検査しましたが、異常なく、精神的なものではないかと言われました。それでも、握力が5kgくらいしかなかったし、本人は気のせいではないと思っていたので、当院の神経内科に来院されました。

 新たに、神経伝導検査をして、「慢性炎症性脱髄性多発性神経障害」と診断されました。ただちに副腎ステロイドホルモンが大量投与されました。数ヶ月後彼は、力強く歩き、握力も50㎏を越す男性に戻り、完全に職場復帰したのでした。

 もう少し遅れれば手遅れで、麻痺は不可逆的となり、命は継続できても、車椅子の余生であったでしょう。そうやって、専門の大学病院などへたどり着いた時は、「治らない神経内科」と呼ばれるようになっていたのだと思います。実際、その病気はその当時、やっと少しばかりの論文や学会で発表されたばかりでした。むろん教科書に載るのはもう少し後になってからでした。私はたまたま耳学問として聞いていたので、診断にたどり着きましたが、1~2年前だったら、診断できていなかったでしょう。

 このように、神経内科が早期発見できる機会はまだまだ少ないのです…。

 早期発見で病名も変わる!?

 別の男性、早々に入院し「重症筋無力症」と診断されました。直ちに胸腺摘出術を受け、「重症」にならずに治り、職場復帰されました。専門医療が第一線に広まれば、「重症」という病名もはずされるかもしれません…。

一ヶ月で寝たきりになった
おじいさんの話

頭を起こすだけで気を失う?

 当院へ転院してもらい検査をした結果、非常に極端な起立性低血圧症で、シャイドレガー症候群という病気であることが判明しました。副腎鉱質ホルモンの投与で、元のように歩けるようになって退院しました。

難病のおばあさん

某大学病院で薬を5錠だされても
寝たきりだったのに

 パーキンソン病で進行した状態(ヤール5度)で入院。リハビリと、その後の外来で薬を3錠に減らしたにもかかわらず、「パーキンソンの集い」(患者さんの集まり)でがんばって、手引き歩行が可能となりました。医師だけでなく、スタッフ全体が「薬」となって、病気を治します…。

隣にすむ、一人暮らしの
おばあさんの話

「ぼけてきた」とあきらめる?

 近所の人に連れられご来院。少なくとも一年前までは、しっかりしていたとのこと。今では、返事もしないほど、ぼーっとされています。「痴呆症は急にはすすまない」の原則に従って、検査をしました。

 そうすると脳の中に慢性の出血(硬膜下血腫)が見つかりました。脳外科に送って、回復したということです。

 年のせいの物忘れと、痴呆症とどうちがうの?

 この問題は大事であり、近年ずいぶん整理されてきました。社会生活に支障をきたさない程度の健忘のみの場合は、「軽症認知障害」と呼ばれるようになりました。将来痴呆症になりやすいと言われ、注目されています。またアルツハイマー型痴呆になりやすい遺伝子の発見や、治療薬の出現があります。「治療可能な痴呆症」もあるので、できるだけ早期に受診することをお勧めします。

最新医学を、
今の日本ではどれくらいの患者さんが
享受できているのでしょうか?

 医学医療の進歩の速さは、たとえてみれば、医学生が「入学した時」と、「卒業する時」で変わってしまうくらいの速さです。ですから「すでにわかっているのに、多くの患者さんに配られることのない、最新の医学医療」があります。ぜひ、治りやすい早期に、神経内科専門外来の門をくぐってみてください。