研修医・医学生のみなさんへ

京都民医避第二中央病院における内科研修について紹介させていただくに際し、まず症例を提示してみたいと思います。

【症例A】

50歳男性

元来健康で特記すべき既往歴なし。
数日前より咳、痰、発熱といった症状がみられ、風邪だと思い様子をみていたが、症状は徐々に悪化し、昨日からは呼吸困難も出現、とうとう体を動かすこともできないくらい苦しくなったために救急車で受診。
受診時、39℃の発熱、頻呼吸がみられ、SpO2 90%と低酸素を認めた。
付き添っていた妻に話を聴くと、最近は仕事が非常に多忙で連日残業が統いていたが、久しぶりに休みがとれたため、先週は家族とともに温泉旅行に出かけたとのこと。

【症例B】

85歳男性

糖尿病の持病があり、5年前に脳梗塞を発症。以後、徐々にADLも低下。認知症も進行。
膝の悪い妻が、なんとか車椅子に移乗させて食事を介助しており、普段は往診にて管理されている。
数日前より何となく活気がなくなり、食事量も減ってきた。往診してもらっている診療所に連絡すると病院受診を勧められたが、妻一人では病院に連れてくることができずに救急車で受診。
受診時、体温、血圧、心拍数は大きな問題ないが、傾眠傾向でSpO2 90%と低酸素を認めた。咳をしている様子もなく、腹部所見も異常なさそうである。
付き添っていた妻に話を聴くが、「ここ数日は何となく元気がなくなって、ご飯もあまり食べなくなった」とのことで、それ以上の情報は得られなかった。

★本来の入院のきっかけとなった肺炎は比較的速やかに改善するも、次々に生じる新たな問題のため、家族の不安も大きく、頻回なコミュニケーションによって、信頼関係を築く必要がある。

★退院まではまだまだ時間がかかりそうであり、そもそも入院前と同じように、高齢で膝の悪い妻との二人暮らしの生活に復帰できるのだろうか。離れて暮らしている娘夫婦との同居はできないようである。

地域医療活動

二つの症例を比較してどのように思われるでしょうか。

どちらも“肺炎”として入院された症例ですが、【症例A】は非常にスマートな医療という印象を受けます。 医師の国家試験の問題にでもなりそうな症例でしょうか。対して【症例B】の担当医は大変です。次々に生じてくる問題に対応するも、患者さんがどんどん元気になっていく様子もなく、家族対応に気を配り、退院後の生活にも目を配らなければなりません。看護スタッフ、リハビリスタッフ、栄養サポートチーム、精神科医など様々なスタッフとコミュニケーションをとる必要もあります。常に急変されるリスクがあり、毎日ストレスの多い日々を過ごさなければなりません。

当院の医療活動の大きな柱の1つとして、“地域の医療ニーズにできるだけ応えていきたい”ということが挙げられます。近隣に京都大学病院や京都府立医科大学病院といった高度に専門分野に特化した医療や最先端の医療を行うことのできる医療機関が存在している一方で、入院施設を有さない医院や診療所も多く存在します。そういった周囲の医療機関と連携しながら医療活動を行っています。

「専門的な治療や急性期の治療は終わったが、まだまだ退院できる状態ではない」といった患者さんや「大学病院に紹介するほどではないけど在宅や外来でフォローするには難しそうだ」といった患者さん、また「介護者の体調が悪化したので入院させてほしい」といった患者さんが多く紹介されます。そういった患者さんのほとんどが高齢者の方々であるため、必然的に“高齢者医療”ということも当院の医療活動の大きな柱の1つとなります。複数の持病を有し、ただでさえ機能の低下していく傾向にある高齢者の方々を、如何に立ち直らせて病前の状態に近づけてあげられるか、ということを日々追求しています。うまくいかないことや、当初のプロブレムとは別の問題が次々と生じて、患者さんの状態がどんどん悪化していくことも多く経験することになり、ストレスの多い日々を過ごさなければならないことも多いでしょう。また、医者以外の多くの職種のスタッフとコミュニケーションをとらなければうまくいかないことも痛感させられることになるでしょう。一方で、人生の大先輩である高齢者の患者さん、例え認知症があったり、寝たきりで言葉を発することのない患者さんでも家族にとってはかけがえのない存在です。治療や対応に難渋した患者さんが回復されて退院される姿を見送る際には大きな達成感を覚えるはずです。

内科研修において、体系的な診断技術、標準的な治療法の知識、処置・検査手技の獲得といったことは必ず習得しなければならないことで、典型的な症例をガイドラインやエビデンスに従って治療するトレーニングを行わなければなりません。病気の診断や治療といった側面に主眼を置くことも当然です。一方で、標準的な治療だけでは対応に難渋するような患者さんに接することや高齢者地域のエーズを肌で感じることができるような経験をしておくことも必要だと考えます。

ますます深刻となっていく高齢者社会において、これからの長い医師人生で"高齢者医療""地域医療"といったフィールドはどうしても避けて通ることのできないものでしょう。

当院での研修が今後の医師人生の糧となるようにサポートできればと考えています。

〈目標〉

地域医療・高齢者医療を実践することができるようになり、また、それを通して、チーム医療のできる責任感のある医師になる。

  1. 地域医療ができるようになる
    病院での一般外来・救急外来・紹介入院、多彩な診療所での外来・往診などを通して地域の医療ニーズを知り、病診連携を双方の立場で経験し、それらを担当医として対応することで実践的な能力を身につける。
    特徴:古くからある病院であり、地域住民にとって最初に受診する病院となっている。そのため、よりプライマリな診療を求められる。また、透析や健診、小児科など多様な診療所もあり、都市部から山間部、富裕層から貧困層、軽症から神経難病まで、多くの往診患者を診ている。そこで、より幅の広い医療を行うことができ、また、在宅から入院までを通して患者を診ることができる。大学病院からの地域医療研修も継続して行っており、よい評価を受けている。
  2. 高齢者医療ができるようになる
    標準的な内科的治療のみでは難渋する高齢患者の診療を通して、高齢者医療に必要な要素を学び、身につける。医療倫理・リハビリテーシヨン・嚥下・褥瘡・栄養・MSW・看護・薬剤・精神科領域など。
    特徴:院長を始めとする多くの神経内科医、府内トップレベルのリハビリ(特にST)、精神科常勤医、実績のあるNST、褥盾などに詳しいWOCナース、積極的なMSWなどを有し、高齢者医療の各内容を、実際の診療の中で専門的に学ぶことができる。京都府内で、地域に近いこの規模の病院でこれだけ揃っている病院はほとんどなく、他病院からの紹介も多い。
  3. チーム医療ができるようになる
    病院内外の医師や医師以外の医療スタッフを知り、担当医としてコーディネートしていくことで実践的な能力を身につける。医療のすべての場面で必要となるが、学びやすいのは地域医療・高齢者医療の場である。
  4. 責任感を身につける
    指導医をはじめとするセーフテイネット上で、担当医として日々診療することで患者に対する責任感を身につける。
    特徴:研修医指導の歴史があり、また、病院の規模も大きくないため、指導医のみならず、他の医師、病棟スタッフも研修医をみており、セーフティネットの役割を果たしている。その上で、研修終了後には責任ある一人の医師としてやつていけるために、医師としての姿勢を身につける。
  5. その他
    希望に応じて、エコー研修や神経内科回診研修などを組み込むことができる。